人力発動機 雑文日記

70年代、80年代のロック、映画等、サブカルチャーなどを図らずもボロクソに書いてしまう妄想的感想文日記。貼り付けている写真類は、当面の間無断使用です。なお本文は、頻繁に書き直すのでご了承ください

めんどくせーな殺人事件 映画『青春の蹉跌』

石川達三・著 『青春の蹉跌』 新潮文庫

ほとんど古典といっていい、古い小説だ。昭和43年度初版(1968)。ちなみに蹉跌とは、つまづきとか挫折とかを意味する言葉だ。

主人公は『化石の森』と同じタイプながら、著者が手慣れているから、ちゃんと書き込んである。文章量にして、『化石』の三分の一くらいだが、情報量は五倍くらいある。

主人公は、学生服を着ている学生さんだ。司法試験に受かって、将来は法学者になろうとしている。資産家の娘との婚約も決まって、それまでつきあっていた蓮っ葉な女の子(家庭教師をしていたときの生徒)が邪魔になって、箱根にデート行った時に絞殺してしまう。なにしろ、妊娠したから結婚してくれと迫ってきたりと、邪魔だったのだ。しかし、主人公の学生さんは、ただ殺して、隠蔽工作も何もしないで帰ってきたので、簡単に警察に掴まってしまう。警察で、女の子のおなかの子の父親は、別の男だったと告げられて、呆然とする。というお話。

当時は、きっと、頭脳明晰で計算高いが道徳観念の欠如した困ったニュータイプの人間を描いた!みたいに、この小説が話題になったのだと思う。が、いまどきは、この程度にバランスを欠いた人間はゴロゴロしているし、犯罪の杜撰さも、現在の方がもっと後先考えないケースが平気であるので、主人公に対しては何も感じない。というより、牧歌的なのどかさすら感じてしまう。それと同じように、この小説からも、衝撃は受けない。映画と違って、原作小説の方は、きれいに古く、丸くなって、とっくに寿命を終えている。

石川達三の他の小説も、みんな寿命を終えてしまっているような気がする。
そこで、ちょっと調べてみた。



『青春の蹉跌』は、1968年の4月から9月まで毎日新聞に連載された新聞小説だ。「天山事件」という実在の殺人事件がモデルになっているらしい。妊娠した女子大学生が、交際相手の大学生に、佐賀県にある天山という山の登山に誘い出されて、殺された、という事件だ。

小説と同じで、殺された女子大学生の胎児の父親は、殺した大学生とは別人だった。それが判明したのは、佐賀地方裁判所で開かれた初公判でだったという。傍聴席の人々も驚いたが、被告の大学生が一番驚いたらしい。

その後、被告の大学生に同情が集まり、懲役8年の刑が確定。「模範囚として服役、早期に出所」したらしい。 現在、生きていてもおかしくない年齢だ。

石川達三は、社会派作家だったから、実際の事件をもとにした作品も多い。
『蒼氓』=ブラジル移民
『生きてゐる兵隊』=南京大虐殺
『風にそよぐ葦』=ジャーナリスト主人公にした自伝的作品
『人間の壁』=佐賀県教職員労働争議
『金環蝕』=福井県の九頭竜ダム落札に関する汚職事件
などだ。みんな新潮文庫で出ていた。

このほかに、進歩的な生き方をする若者や女性を主人公にした小説群があったと思う。
『結婚の生態』
『幸福の限界』
『泥にまみれて』
『独りきりの世界』
『僕たちの失敗』などだ。
これらもみんな新潮文庫だ。

『僕たちの失敗』は、NHKでテレビドラマにもなっていて、主演は故・荻島愼一だったか。相手役は、酒井和歌子だったような気がする。主題歌が五輪まゆみの「落日のテーマ」だった。多分、私が最初に買った邦楽のシングルレコードだ。

このNHKのドラマ、「銀河テレビ小説」という帯タイトルだったと思う。他にも、山口瞳の『江分利満氏の優雅な生活』とか、山口百恵が主演した遠藤周作の『灯のうるむ頃』などがあった。

当時、原作の文庫本を片っ端から読んでいた気がする。石川達三も、『僕たちの失敗』からさかのぼって、10冊くらい読んだと思う。その割に、現在、何一つ、記憶に残っていない。

『青春の蹉跌』が本になったのは1968年だ。映画は1974年。小説は既に話題作でもなんでもない状態だったに違いない。なんでこの小説を原作に選んだのだろうか?

実際、映画と小説とは、別物になっていた。極端な話、小説は戦前の雰囲気を色濃く遺しているのに対して、映画はオイルショック以後の雰囲気だ。タイトルと設定という器だけ借りて、中身は、離人感覚にも似た当時のモラトリアムな気分を詰め込んでいる。



神代辰巳・監督作品 『青春の蹉跌』1974


先日、下北沢で、ほぼ四半世紀ぶりにこの映画を観た。見るのは多分、三回目か四回目なのだが、今回は、ずいぶん印象が違って見えた。

主人公がやっているスポーツが、ラグビーだと記憶していたが、アメフトだったこと。よくよく思い出せば、アメフト以外にありえないのだが、なんでラグビーだと思いこんでいたのだろうか…。

桃井かおり演じる短大生の部屋の机の上に飾ってあったイラストが、大友克洋の画に見えたこと。アフレコが、結構、ずれていた。というかいい加減だったこと。ショーケンと桃井かおりが、当時のファッション雑誌から抜け出てきたみたいに、かっこよかったこと。ストーリーの流れと関係なく、イメージカットが挿入されていたこと。

そしてなにより、ショーケン演じる主人公が、何をやるにも全部、面倒臭そうだったこと。別に上昇志向があるわけでもなく、面倒くさくて、結局、人まで殺してしまうところが、リアルで、見るたびにそこに、共鳴していたのだとわかったこと。

ショーケンの一挙手一投足に、関節がきしみを上げて、その音が聞こえてきそうだった。ほんと、めんどくせーな。という映画だった。

【2008/05/25 12:47】 映画感想文 | TRACKBACK(0) | COMMENT(0)
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1961年、東北生まれ。現・東京都在住。
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