人力発動機 雑文日記

70年代、80年代のロック、映画等、サブカルチャーなどを図らずもボロクソに書いてしまう妄想的感想文日記。貼り付けている写真類は、当面の間無断使用です。なお本文は、頻繁に書き直すのでご了承ください

マンガなら普通のこと 活字ではちょっとね



矢作俊彦・著 『引撃』(エンジン) 新潮社

引撃と書いて、エンジンと読ませる。中国ではエンジンのことを、漢字でこう書くのだそうだが、発音はわからない。この本は、しばらく前に読んだのだが、あまり感想を書く気にはならなかった。今日は暇つぶしで、ちょっとだけ書いてみる。といっても、たいして中身はない。

主人公は警視庁の刑事で、張り込み中、同僚を殺される。事件からは外され休職身分となるが、単独で捜査を進める。その過程で、中国人らしい美人スナイパーみたいな、女と絡んで、色々とある。この女は、その昔の007だったら、グレイス・ジョーンズみたいだし、ターミネーター3の女ターミネーターみたいでもある。極端な設定だけでキャラクターと呼べるほどの人間味はない。

それは主人公も同じで、特に特徴がなく、読んでいてもイメージしづらい。そんな冴えない主人公だが、女にもてるし、別れた妻は社会的に成功しているし、いざとなったら主人公を助けてくれる。格別な魅力も能力もなさそうな主人公なのに、危機に陥ってもなんなく切り抜けるし、肉体的にも超人的な活躍をして、ストーリーの終盤まで、突っ走る。

ほとんどアメリカ製のノンストップ・アクション・ムーヴィーみたいだ。小説として、つまり文字で表現する価値というか意味があるのか、かなり疑問に思える小説だった。何で今更こんな作風になるのか、不思議だった。

やってみたかったのだろうか。もし小説でなくて、映画だったら、退屈しないで見られたかも知れない、と思った。ビジュアルがあれば、主人公に内面や人間的な魅力がなくても、ルックスという具体的なミテクレがあるから、十分持たせることができる。小説じゃなくて、シナリオだと思うと、なんだか豊かな可能性が広がっていくような気がしてくる。





矢作俊彦・司城志朗 著 『犬なら普通のこと』 早川文庫

二、三年前に単行本で出たのだが、今回、文庫になったので読んでみた。

矢作俊彦と司城志朗のコンビは、もう二、三十年前に、角川ノベルスで『暗闇にノーサイド』『ブロードウェイの自転車』『海からきたサムライ』の三作品があった。題名はすらすら出てくるのだが、中身は何も記憶にない。なんとなく、ジャンルとしては冒険小説だった気がするが、憶えてないのだから、大して面白くなかったのだろう。

最近になって、このコンビが復活して、本書の『犬なら普通のこと』以降、『百発百中』『ARAKURE』と、既に三つを合作している。

でも本書は、冒険小説ではなく、チンピラが主人公の、ノアールのようなジャンルの小説だった。基本はドタバタアクションだ。もしかしたら、コメディなのかもしれない。

しかし、この小説の世界を活字で味わうには、ちょっと辛い、と感じた。描写、書き込みが浅いのだ。テキトー過ぎると言おうか。思い切り上から目線で書くと、まだまだ習作の段階で、人様にお見せするレベルには達していない、という感じだ。推敲を重ねて、人物も造形深く、ストーリーにもメリハリをつけて、もっと磨き上げるべきだった。まるで急造の、プレハブのような印象が否めない作品だった。

このままの、粗さを生かすには、活字ではなく、多分、マンガあたりが、一番、表現方法として適切なのではないか、と思う。実写映画だとヤスっぽくなって哀しくなるから、マンガが一番、フィットする。ご都合主義の展開も、まさかという展開も、奇想天外風な登場人物も、マンガなら、このドタバタな世界が、コメディのままリアルになる。マンガなら普通のことが、実写や活字だと、まるでちぐはぐになるように、その逆もあるのだ。

活字の小説としては、叙述の視点が変化しすぎで、落ち着きがない。読者は誰に感情移入していいかわからなくなるだろう。小説を読み進む上で、前衛作品でもないのだから、これは大きな障害だ。

さて、肝心の物語だ。舞台は沖縄だ。うだつの上がらないヤクザが、一発あてようと、自分の組の金を強奪する計画を立てるのだが、予期しない出来事が重なって、計画が二転三転する。一級のエンタティメントなら、この二転三転が、手に汗握る展開となって、読者をぐいぐいと引っ張っていくのだろうが、本書の場合、緊張感のない、ただのドタバタにしかならない。

ドタバタ感覚がこの小説の持ち味だとすると、このドタバタ感を表現するには、しつこいようだけど、活字は向かないと思う。まして主人公はハーフという設定なのだが、最初に説明されるだけで、あとはハーフとして、何も機能しない。ハーフである意味は、物語の展開上、どこにもない。

これが、マンガや実写なら、ヴィジュアルが常にハーフを主張してくれるから、説明抜きでそのまま突っ走れる。画面効果は、表情や立ち居振る舞いとして、そのまんま現れる筈だ。マンガでは、それが普通のことなのだ。

漫画家は、すぎむらしんいち、あたりが一番適していると思う。すぎむらしんちの絵柄をイメージして、この小説を読むと、実に生き生きした世界が、展開してくる。活字よりもずっといい!





【2012/02/12 09:19】 読書日記 | TRACKBACK(0) | COMMENT(0)
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1961年、東北生まれ。現・東京都在住。
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